取材の記録

場所
北海道・札幌
時期
2020年10月〜2021年3月(制作)
一緒に
北海道いのちの電話、ロックバンド ナイトdeライト
作った物
ミュージックビデオ「生きててくれてありがとう」(監督)

この記事の要点

  • コロナ禍、北海道いのちの電話は「100回かけて3、4回しか繋がらない」ほど逼迫していた。電話を受けるのは、平均66歳のボランティアの相談員。
  • いのちの電話とロックバンド ナイトdeライトのミュージックビデオ「生きててくれてありがとう」を監督した。出演は役者ではなく、実際に人生に思い悩んだ経験を持つ7人。
  • 映像はDVDで小・中学校へ届けられ、NHK総合「ほっとニュース北海道」で特集された。
  • いま、つらい気持ちを抱えている人への相談先を、記事の最後にまとめた。

「いのちの電話」は、死にたいほどの苦しみを抱えた人が、匿名で相談出来る電話相談の窓口だ。コロナ禍で孤立が深まった時期、その電話は、100回かけて3、4回しか繋がらないほど、逼迫していた。

100回かけて、3回しか繋がらない

電話を受けているのは、平均年齢66歳のボランティアの相談員の方々。365日24時間の体制で、なんとか自殺を食い止めようと、日夜奮闘されている。北海道いのちの電話の方は、打ち合わせの中で僕にこう言った。「私たちは、受け手から発信者に変わっていかなければならない」。

その最初の映像が、ミュージックビデオ「生きててくれてありがとう」だった。北海道を中心に活動するロックバンド、ナイトdeライトと、いのちの電話のタイアップ曲だ。2020年の10月から、制作チームと何度も何度も、「自殺」をテーマに議論を重ねた。

撮影の準備をする制作チーム
札幌での撮影。2021年2月。

なぜ人は、自ら命を絶ってしまうのか

夏休みが明ける9月1日は、子どもの自殺が1年でもっとも多い日だと言われている。2020年に自ら命を絶った小・中・高校生は、499人。なぜ人は、自ら命を絶ってしまうのか。当事者でもある僕は、ずっと考えてきた。ひとつ出た答えは、「想像力」だった。身体の痛みも、心の痛みも、その痛みは本人にしかわからない。どれだけ叫んでいても、理解する事は難しい。

「痛み」が、人々の想像力の欠如から生まれてしまっているのなら。僕は、与えられた賜物を通して、その想像力の手助けになりたい。そう決めて、映像の制作を続けてきた。

演じるのではなく、本当に苦しんだ人と

企画を細部まで作り上げて、あとは撮影という段階で、いちばん大切なキャストが見つからなかった。役者さんの力を借りる事も出来る。けれど今回、それは嘘になる。最後の最後まで諦めずに探して、実際に人生に思い悩んだ経験を持つ7人に、出演をお願いした。いじめ、パワハラ、家庭の不和。当事者だからこそ伝えられるメッセージがあると信じて、寄り添い合う姿を描いた。

インタビュー撮影の準備照明とカメラを立てた撮影の現場
出演者の言葉を撮る。

制作の話になると、最初に出てくるのはたいてい「予算」だ。けれど、映像を通して誰かの人生にきっかけを与える価値や、誰かの命を救う価値は計り知れない。命は、お金に変えられない。

消費されない映像を、僕だから届けられる映像を、
全力で制作していく。

「生きててくれてありがとう」を観る(Instagram)

学校へ、そして全国へ

完成した映像は、DVDになって小・中学校へ届けられた。NHK総合「ほっとニュース北海道」で特集され、その後、全国でも放送された。映像監督として、インタビューを受けた。生い立ちの事。高校生の時の、映像との出会い。教会の事。そして、ジャーナリストとしての最初の作品が、この映像だった事。話しながら、感謝が溢れて、2、3回は泣いた。

誰ひとり、取り残さない

SDGsがいちばん伝えたいメッセージは、目に見えやすい環境問題だけじゃない。「誰1人取り残さない」事にある。困難のなかにいる人、声をあげられない人。目に見えない、内面の痛みのとなりにも、光が届きますように。

いま、つらい気持ちを抱えている人へ

ひとりで抱えずに、話してみてください。電話やSNSで相談出来る窓口が、厚生労働省のページにまとまっています。

成田淳

成田淳(Narita Jun)

映像作家・映像ジャーナリスト。1993年名古屋生まれ。国際NGOのスタッフとして災害・人道支援の現場に立ちながら、人と生き物と地球のドキュメンタリーを制作している。グリーンフィルムフェスティバル2024 最優秀賞。

出典:小・中・高校生の自殺者数は 厚生労働省・警察庁「令和2年中における自殺の状況」、9月1日については 自殺対策白書

この記事は、2021年2月〜9月の Instagram の投稿(1・2・3)を、読み物として書き直した物です。