取材の記録

場所
北海道 小樽・積丹半島
時期
2020年12月と2021年2月の2回
テーマ
磯焼けの原因、トドの漁業被害、ニシン漁の歴史
取材した人
海に生きる漁師の皆さん、トドと向き合うシーライオンズクラブの藤田さん

この記事の要点

  • 磯焼けは、浅い海の岩場で海藻の群落(藻場)が著しく衰えたり、消えたりする現象。北海道ではウニによる食害が知られ、温暖化も海藻を減らす方向に働いている(水産庁)。
  • トドは保護で数が回復し、いまは準絶滅危惧。北海道の海獣による漁業被害は2025年度に約10億9,000万円で、その9割近くをトドが占めた。
  • 2020年12月と2021年2月、小樽・積丹半島で漁師の話を聞き、マイナス15度の中、海に潜って取材した。ジャーナリストとしての最初の取材。

積丹半島は、北海道の日本海側に突き出した、切り立った岩場と青い海で知られる土地だ。かつてニシン漁で栄えたこの海に、いま静かな異変が起きている。海藻が消え、岩肌がむき出しになる「磯焼け」と呼ばれる現象だ。

積丹の断崖の下、ダイビングの準備をする船の上
潜る前の船の上。積丹半島、2020年12月。

はじめての取材は、真冬の北海道だった

2020年の12月。ジャーナリストとして歩きはじめて、最初に向かったのが真冬の北海道だった。2月にもう一度、トドによる漁業被害と磯焼けの取材の為、小樽と積丹半島を訪れた。自分でディレクターを担当し、本格的に取材を始めた最初の現場。地球温暖化、海洋問題、生態系、北海道の歴史。たくさんの本を読んで、前提の知識を叩き込んでから向かった。

船の上でカメラを構える成田淳港でカメラを準備する成田淳

磯焼けとは? 原因は何か

水産庁の「磯焼け対策ガイドライン」によると、磯焼けとは、浅い海の岩場で海藻の群落(藻場)が著しく衰えたり、消えたりしてしまう現象の事。季節の移り変わりの範囲を、超えてしまう。一度起きると、藻場が戻るまでに長い年月がかかる。ウニやアワビなど磯の資源が減って、沿岸の漁業に大きな影響を与える。

海藻が減るのは、①ウニや魚などに食べられる、②枯れる、③芽生えなくなる、④流される、のどれか、またはその組み合わせ。北海道ではウニによる食害がよく知られている。そして近年の温暖化は、この四つのどの面でも海藻を減らす方向に働いているという。

トドと漁師、それぞれの事情

トドは、かつて数を大きく減らし、絶滅危惧種とされていた。保護によって数が回復し、今は環境省のレッドリストで「準絶滅危惧」に。けれど、網を破り、魚を食べるトドの漁業被害は大きい。北海道では2025年度、トドやアザラシなど海獣による被害額が約10億9,000万円。その9割近くを、トドが占めた。守るべき命と、海に生きる人の暮らし。どちらかだけを切り取る事は出来ない。

トドの撮影で、マイナス15度の中、海に潜った。本当に寒かった。

地球温暖化は、遠い話ではなかった

地球温暖化と聞いても、都会で育った僕は、正直まったく意識していなかったし、遠い話だと思っていた。けれど、漁師さんの話を聞いて、自分で海に潜って磯焼けを見て、肌身で感じた。かなり近い所まで来ている。藻場が失われれば、そこに集まっていた命の循環が崩れていく。海に生きる人たちの暮らしも、脅かされていく。

夕暮れの漁港
日が落ちる漁港。
情報ではなく、現場のリアルを知る事。
自分の目で見る事が、大切なんだと実感する。

現地の方の話をしっかり聞いて確信したのは、一次情報の大切さだった。インターネットに落ちている情報は、出どころが古かったり、主観が強かったりする。研究者や科学者の情報と、現地で活動されている方々の記録。それを大前提にして、伝える。

消費されない映像を、届くべき人へ

日本に住む多くの人が、きっと僕と同じ感覚を持っている。だからこそ、その感覚を大切にしたい。環境問題の映像は、前提知識を飛ばして事実だけ伝えて終わる物が多い。問題が大きすぎて、作り手が責任を持てないのもわかる。それでも僕は、消費されない映像を、届くべき人に届く映像を作りたい。

雪の積丹の道でカメラを持つ成田淳

この取材はやがて、北海道の「いのちの電話」の映像制作へとつながっていった。何ひとつ、意味の無い時間はなかった。

成田淳

成田淳(Narita Jun)

映像作家・映像ジャーナリスト。1993年名古屋生まれ。国際NGOのスタッフとして災害・人道支援の現場に立ちながら、人と生き物と地球のドキュメンタリーを制作している。グリーンフィルムフェスティバル2024 最優秀賞。