この記事の要点
- 2021年、法人の登記日は、28歳の誕生日とぴったり重なった。
- 差別されて育った子どもが、生まれたこの国に納税出来る。初めての決算で、涙が溢れた。
- 社名の「WAVE」は、「流れに、身を委ねる」。効率よりも、社会への還元を選んだ。
更新
2021年9月30日。28歳の誕生日に、自分の会社を持った。自然な流れで、法人の登記日が誕生日と重なった。これも運命なのだと受け入れて、株式会社WAVEの代表として、次の1年を歩み始めた。
その日の夜は、母が営むスナックで、ささやかな誕生日会をした。この日の為に作った名刺を、両親に渡した。
「今まで信じて、育ててくれて、ありがとう。
もう大丈夫だから、安心してね」
この国に、納税が出来るという事
小学生の時、ツケ払いで酒屋さんに行くと「お、いつものフィリピーナーが来た」と言われた。
中学生の時、電車に乗ると、色眼鏡で見られた。
高校生の時、試験会場で座っていると「将来、ああいう奴が犯罪をするんだよな」と聞こえよがしに言われた。
スーパーでレジを打っていると「うわ、外国人じゃん、このレジやめとこ」と避けられた。
そんな僕が、自分の会社を持って、生まれたこの国、日本に、しっかりと納税が出来る。1年目の決算を終えた時、その事実に、涙が溢れた。
強制帰国寸前だった僕たち兄弟を、「この子たちは、何も悪くない」と引き取ってくれた育ての父。出生を証明する為に、気の遠くなるような書類を、死に物狂いで集めてくれた、今は亡き祖父。その人たちのお陰で、僕は今、ここにいる。
当たり前じゃない、この命を、大切に使おう。
その思いが、いつも僕を前に進めてくれる。
社名に込めた、「流れに、身を委ねる」
社名の「WAVE」に込めたのは、「流れに、身を委ねる」という意味だ。自分の力を外から強くするのではなく、自分の中に入って、自然の流れに委ねる。
夢を持つ事、目標を持つ事は、素晴らしい。でも、夢が叶った後も、人生は続いていく。目標の次の目標、そのまた次の目標。頑張って、努力を重ねて、追い抜いて、追い越して、飲み込まれる。自分で流れを作って乗ろうとしても、源流に逆らう事は難しい。
一度失いかけた命の時間の中で、与えられた自分、与えられた人々、与えられた機会がある。ご飯が美味しくて、愛する人がいて、夕日が綺麗で。二度と戻ってこない一日一日を、噛み締めて生きたい。信頼し、優しく覆い、波が広がるように。そんな願いを、この名前に込めた。
経営者1年目は、うまくいかない事ばかりだった
経営者としての1年目は、正直、うまくいかない事ばかりだった。完璧主義で、考える癖があって、情緒で動く感覚派。経営者に向いていない事は、自分がいちばんわかっていた。
でも、それは単なる特性で、夢を叶える為にやらない言い訳にはならない。次の10年は、一人で見ていた夢を、仲間で見る10年なんだ。そう決めた。
そんな僕を見て、多くの先輩や友人が、心配して助言をくれた。「属人性の高い仕事も良いけれど、キャパには限りがある。コミュニティや、仕組み化で、もっと効率よく稼げるよ」と。きっと、その道を選べば、お金も時間も、もっと出来たのだと思う。
効率よりも、原点を選んだ
でも、なんだか、本来の目的から逸れてしまう気がした。自分の生きてきた足跡を振り返った時、その選択は、違う。
起業をした原点は、シンプルだった。生まれ、与えられた人々、環境、挑戦。磨き上げた賜物を、社会に通用する形に変えて、生きてこられたこの社会に、還元する事。
学校を建てるにも、教会を建てるにも、誰かを守るにも、お金は必要だ。お金は、それを成し遂げる為の手段でしかない。コロナ禍の年、仲間のクリエイターたちに支払った外注費が300万円を超えた時も、思っていた。搾取をする事で、僕の魂は喜ばない。搾取をされなかった子は、きっと搾取をしない。
中から外へ。人と社会を、繋ぐ
18歳から28歳までの10年は、探していた10年だった。与えられた賜物を磨いて、自分を理解して、どこに向かうべきかを。次の10年は、自分の中から外へ。人と社会を、人と世界を繋ぐ。ソーシャルクリエイティブへと、少しずつ舵を切り始めた。
取材の報告をすると、ほとんどの人が「私にも、何か出来る事は無いのかな?」と言ってくれる。けれど、その思いをどこに向けたらいいのかがわからない。だったら、世界で起きている事の解像度を、僕たちが担いたい。人と人が繋がるメディアを作りたい。
今の時代、インスタグラムを見ても、Xを見ても、YouTubeを見ても、つくづく、様々な痛みを感じる。傷ついていない人なんて、きっと、誰もいない。だからこそ、映像や音楽やクリエイティブが持つ、言葉を超えた“無言語の力”を、僕は信じている。0か1か、白か黒かではなく、感じるままに人の心を動かす、その力を。
何も無かった僕が、素晴らしい人々に恵まれて、素晴らしい機会を与えてもらった。いつも支えてくださる一人ひとりに、心から感謝しています。
「心を尽くして主に信頼し、自分の悟りに頼ってはならない。あなたの行く道すべてにおいて主を認めよ。そうすれば、主はあなたの道をまっすぐにされる。」— 箴言 3章5〜6節