2021年、僕は自分の会社を持った。法人の登記日は、奇しくも28歳の誕生日と、ぴったり重なった。これも運命なのだと受け入れて、株式会社WAVEの代表として、次の一年を歩みはじめた。

差別されて育った子どもだった。ツケ払いで酒屋へ行けば「いつものフィリピーナーが来た」と言われ、電車では色眼鏡で見られ、試験会場では「将来ああいう奴が犯罪をする」と、聞こえよがしに言われた。そんな僕が、自分の会社を持ち、生まれたこの国、日本に、しっかりと納税ができる。その事実に、涙が溢れた。強制帰国寸前だった僕たち兄弟を、「この子たちは、何も悪くない」と引き取ってくれた育ての父。出生証明のために、気の遠くなるような書類を、死に物狂いで集めてくれた、今は亡き祖父。その人たちのおかげで、僕はいま、ここにいる。当たり前じゃない、この命を、大切に使おう。その思いが、いつも僕を前に進めてくれる。

当たり前じゃない、この命を、大切に使おう。
その思いが、僕を前に進めてくれる。

社名の「WAVE」に込めたのは、「流れに、身を委ねる」という意味だ。自分の力で流れをつくり、逆らおうとするのではなく、自分の中に入って、自然の流れに委ねる。夢を持つこと、目標を持つことは、素晴らしいことだ。でも、夢が叶った後も、人生は続いていく。目標の次の目標、そのまた次の目標。頑張って、努力を重ねて、追い抜き、追い越し、飲み込まれ——自分で流れをつくって乗ろうとしても、源流に逆らうことは、難しい。それよりも、与えられた命の時間を、二度と戻らない一日一日を、噛みしめて生きたい。信頼し、優しく覆い、波が広がるように。そんな願いを、この名前に込めた。

経営者としての一年目は、正直、うまくいかないことばかりだった。会社のことなんて右も左もわからず、投げ出しそうになる日もあった。そんな僕を見て、多くの先輩や友人が、心配して助言をくれた。「属人性の高い仕事も良いけれど、キャパには限りがある。コミュニティやオンラインサロン、仕組み化で、もっと効率よく稼げるよ」と。きっと、その道を選べば、お金も時間も、もっとできたのだと思う。

でも、なんだか、本来の目的から逸れてしまう気がした。自分の生きてきた足跡を振り返るときに、その選択は、違う。僕が起業をした原点は、シンプルだった。生まれ、与えられた人々、環境、挑戦。磨き上げた賜物を、社会に通用するかたちに変え、生きてこられたこの社会に、還元すること。学校を建てるにも、教会を建てるにも、誰かを守るにも、お金は必要だ。お金は、それらを成し遂げるための手段でしかない。次の10年は、自分の中から外へ。人と社会を、人と世界をつなぐ——ソーシャルクリエイティブへと、少しずつ、舵を切りはじめた。

いまの時代、インスタグラムを見ても、Xを見ても、YouTubeを見ても、つくづく、様々な痛みを感じる。傷ついていない人なんて、きっと、誰もいない。だからこそ、映像や音楽やクリエイティブが持つ、言葉を超えた"無言語の力"を、僕は信じている。0か1か、白か黒か、そういう答えではなく、感じるままに人の心を動かす、その力を。

「心を尽くして主に信頼し、自分の悟りに頼ってはならない。あなたの行く道すべてにおいて主を認めよ。そうすれば、主はあなたの道をまっすぐにされる。」
— 箴言 3章5〜6節