この記事の要点
- デンマークの25,000人の調査では、AIで浮いた時間は労働時間の2.8%でした。
- 経験のある開発者の実験では、本人は「20%速くなった」と感じていたのに、計測すると19%遅くなっていました。
- AIに任せるのは「コンテンツ」の機能の側だけ。「作品」の情緒の側は、人が担う。僕がAIを使うのは、作品を作る時間を守る為です。
2022年の11月。取材の下調べに、初めてChatGPTを開いた。質問を打つと、答えが返ってくる。それだけの事だったけれど、下調べの夜が少し短くなった。
あれから4年。便利になった話ではなくて、AIが人に何をするか、という話を書いておきたいと思います。
4年で、AIの使い方はどう変わったか
翌年、Googleの対話AI(いまのGemini)が出て、ドキュメントやスプレッドシートと繋がるようになって。独立して動いていた僕には、企画書と効果測定の相棒になった。
2025年の5月、Veo 3 と Flow で、動画と写真をAIで作るようになって。そして秋。Claudeと、バイブコーディングに出会った。
ここで、世界が変わった。それまでの道具は、どれも良い物だったけれど、用途が決まっていて、そこから枝分かれしていく物だった。バイブコーディングは、0の原点から作れる。最初は調べ物の相棒だったAIで、いまは道具そのものを作っています。
AIに任せていい事、任せない事
ここで、僕の中の線引きを書いておきます。「作品」を作る事と、「コンテンツ」を作る事は、違う。
コンテンツは型があって、数字で測れて、求められるのは機能とスペック。作品は一回きりで、測れなくて、情緒と解釈の話。
機能はAIに任せられる。
情緒は、人にしか担えない。
だから仕組みを作ったのは、コンテンツの側でした。逆に、情緒の側は手放さない。デザインやHPのご依頼を頂いた時は、人が描いた絵か、自分で撮った写真や動画を、必ず入れています。情緒は、体験からしか生まれないと思っていて。手作りの文脈も、そこにしか無い。
映像制作は、AIとバイブコーディングでどこまで自動化できるか
コンテンツの側は、バイブコーディングで0から作りました。気づいたら五つになっていて、全部、自分で作った物です。
- 素材を入れると、構成案から字幕、書き出しまで一続きで出来る、縦ショートの仕組み
- 伸びている動画の型を、数字で読む仕組み
- 日本語の字幕を文節で折り返して、読む速さまで測る仕組み
- 横型の長尺を、同じやり方で九割まで組む仕組み
- サムネイルとタイトルの効きを、数字で見返す仕組み
例えば、縦ショートの仕組みは、こう動きます。
- 取り込む。素材から、作業用の軽い映像と音を作る。
- 読む。話している言葉を、手元のMacの中で文字に起こす。カットの切れ目と、代表の一コマも拾う。
- 案を出す。文字と静止画から、構成案を2〜3案出す。どの案にするかは、僕が決めて直す。
- 組む。切り分け、字幕、音を一続きで組んで、書き出す。
- 確かめる。全部のカットの最初と最後のコマを並べて見る。仕上がりの音を、もう一度文字に起こして、聞こえてはいけない言葉が無いかを確かめる。
「測れなかった物は、合格に数えない」と決めています。残りの一割、音のバランスやつなぎ、テロップの言葉は、自分の手で決める。撮らせて頂く仕事なので、動画と音声は外に出さない設計にしています。外のAIに渡すのは、文字と静止画だけです。
AI時代に必要なのは、ディレクション能力だった
仕組みが増えて、分かった事があって。AIに要るのは、ディレクションの力だった。
2018年に独立してから、僕がずっとやってきたのは、広告やブランディングの担当の方の、まだ形になっていない言葉を、形にする事だった。感覚的な物。抽象的な物。デザイナーさんや音楽家の方々が、それぞれ持っている秘密のレシピ。
この経験が無いと、指示が「なんとなく良いデザインにして」になる。抽象的すぎて、AI側が理解出来ない。何が悪いのかを言葉に出来ないと、直す事も出来ない。
どこを主役にするか。何色を、何割残すか。
どの間で切るか。
だから最近あふれているAIの画像やデザインに、僕はあまり心が動かないのかもしれない。レシピが無いまま、出てきた物だから。
AIで、生産性が上がらないのはなぜか
もう一つ、数字の話をしておきたくて。デンマークで25,000人に聞いた調査があって、AIで浮いた時間は、労働時間の2.8%だったそうです。むしろ8.4%の人は、AIを見張ったり組み込んだりする、新しい仕事が増えていた。
別の実験では、経験のある開発者16人に、実際の仕事を246件やってもらって。本人は「20%速くなった」と感じていたのに、計測すると、19%遅くなっていた。終わった後で聞いても、遅くなった事に気づいていなかったそうです。
「速くなった気がする」が、
いちばん危ないと思っています。
僕自身も、開発の時期は一日中PCに張り付いていた。出来なかった事が、出来るようになる。すると、出来なかったから持てていた時間まで、消えていく。何の為に使うのか。ここが無いと、AIに支配されて、人間らしい時間が消えていくと思う。
AI疲れ ── 使い続けて、自分に起きた事
何でも出来る、と思い始める。人に、プロンプトのように接してしまう。「何故、言った通りにしてくれないんだろう」と思う自分がいた。膨大な応答を返し続けるうちに、こちらは人間なので、脳が先に音を上げる。
これは研究の話ではなくて、僕に起きた事です。笑
新しいモデルは、これからも出続けます。2026年9月3日には、OpenAIの GPT-6 Astra が出て、また話題になっていました。すごいと思う。けれど、触ってすごいと言う事と、現場で実装して使い続ける事は、全く別の話で。
何の為に、AIを使うのか
僕は、作品を作る時間が欲しいからAIを使っています。緊急の現場に出る時。人手が足りない時。自分を酷使して、本来の力が出せない時の為に。
泥の匂いも、待っている時間も、断られた事も。その解釈だけは、誰にも代わってもらえないから。
だから僕は、これからも現場に立っていたいと思っています。
あなたの空いた時間が、ちゃんとあなたの物でありますように。
出典
・Humlum, A. & Vestergaard, E. "Still Waters, Rapid Currents: Early Labor Market Transformation under Generative AI." NBER Working Paper 33777(2025年5月、2026年3月改訂。初版の題は "Large Language Models, Small Labor Market Effects")
https://www.nber.org/papers/w33777
・METR. "Measuring the Impact of Early-2025 AI on Experienced Open-Source Developer Productivity."(2025年7月)
https://metr.org/blog/2025-07-10-early-2025-ai-experienced-os-dev-study/
・OpenAI, GPT-6 Astra(2026年9月3日公開)
この記事は、2026年9月9日に Instagramに投稿したカルーセル を、読み物として書き直した物です。