取材の記録

場所
バングラデシュ南東部コックスバザール、首都ダッカ、南西部クルナ
時期
2021年3月〜4月の1ヶ月
テーマ
ロヒンギャ難民、気候難民、元海賊、革なめし工場の児童労働、児童婚
一緒に
写真のコニーさんたち、4人のチーム

この記事の要点

  • バングラデシュ南東部・コックスバザールの難民キャンプには、ミャンマーから逃れたロヒンギャの人々、およそ100万人が暮らしている。
  • 2021年3月から1ヶ月、初めての海外取材で、難民キャンプのほか、ダッカの革なめし工場の児童労働、気候変動で漁を失い海賊になった人々、児童婚を取材した。
  • 取材の終わりに新型コロナのロックダウンで国際線が止まり、しばらく日本へ帰れなかった。

丘のかたちが、見えなくなるほどだった。世界最大級の難民キャンプは、竹とビニールシートの家で埋め尽くされていた。バングラデシュ南東部、コックスバザール。ミャンマーから逃れてきたロヒンギャの人々、およそ100万人が、ここで暮らしている。

丘を埋め尽くす難民キャンプの屋根
竹とビニールシートの家が続くキャンプ。コックスバザール、2021年3月。

ロヒンギャ難民とは

ロヒンギャは、ミャンマー西部に暮らしてきたイスラム教徒の少数民族だ。長く迫害を受けてきた。2017年8月には、70万人を超える人々が一度に国境を越えて、バングラデシュへ逃れた。それ以前に逃れてきた人々を合わせて、およそ100万人が、密集したキャンプでの避難生活を続けている。

初めての海外取材で、感情に蓋をした

2021年3月。初めての海外取材で、仲間とともに、ひと月ここに滞在した。発展途上国に行くと、見せ物のように子どもたちの写真を撮って、そこに写る自分を見せる人がいる。僕は、そうはなりたくなかった。

キャンプの少し先で、ミャンマーで目の前で家族を殺され、その後に軍から暴力を受けた女性の話を伺った。それでも僕の心は、何も思わなかった。正確に言うと、自分の中の倫理観で、感情に蓋をした。感情的になっても、叫んでも、大きな川の流れは変わらない。僕たちには、彼らが伝えたいと思っている人に、伝わる形に変えて届ける役目があるから。

その人の生きる理由が、
誰かの生きる理由になるから。

10年間映像をやってきて、こんなにも明日が怖く、身体が撮影に行きたくないと嘆いた日はなかった。それでも、誰にでも出来る事じゃないから、明日も全うしよう。帰りのトゥクトゥクの検問でびくびくしながら、聖書を開いた。

夜明け前の浜辺に立つ人影浜辺でカメラを持つ成田淳
コックスバザールの浜辺。写真:コニー

ホームビデオのような距離で

道徳を重んじた報道のような撮り方も、もちろん素晴らしい。けれど、その距離は遠く、遠い話になってしまう。一人の人として、倫理と倫理で向き合って話す。その時、カメラの距離は、ホームビデオのように近くなる。難しい言葉を使わなくていい。その人の、まだ見えていない、輝いている素晴らしいところを伝える事。

キャンプで出会ったのは、僕が想像していた「かわいそうな難民」ではなかった。笑い、祈り、明日を願い、必死に生きている、ひとりひとりの人間だった。

気候変動で漁を失い、海賊になった人

コックスバザールを離れてからは、首都ダッカで屠殺場と革なめし工場を取材した。化学薬品の中で皮をなめす工場では、子どもたちが働いていた。そこから船で15時間かけて、南西部のクルナへ。海水温の上昇で沈んでいく村。気候変動で漁が出来なくなり、海賊になるしかなかった男たち。13歳で嫁ぐ事が決まった少女。すべてが、大きな声にかき消されてきた小さな声だった。

夕暮れの川で、船の上からカメラを構える成田淳船の上で撮影する成田淳
クルナへ向かう川の上で。写真:コニー

面白い事に、どこへ行っても、みんな家族がいて、生活があり、守る者がいる。それは世界共通だった。他者の痛みに思いを馳せる時、取材をする側とされる側という関係が溶けて、交わる瞬間がある。

夜霧の中に光る港の明かり
夜の川港。

帰れなくなった1ヶ月の終わりに

ロケの終わりに、状況が大きく変わった。バングラデシュは新型コロナウイルスでロックダウンになり、国際線が止まった。僕自身も現地で体調を崩し、しばらく日本へ帰れなかった。異国で何も出来ないもどかしさの中で、それでも、ファインダーの向こうにいた人たちの事を考えていた。

窓辺で外を見つめる成田淳

あの日カメラを向けた人たちの「明日」に、僕の映像は何が出来たのか。答えはまだ出ていない。ただ、伝え続ける事をやめたら、あの声は本当に消えてしまう。声なき声を伝える事は、一度きりのニュースではなく、続いていく責任なのだと思う。

成田淳

成田淳(Narita Jun)

映像作家・映像ジャーナリスト。1993年名古屋生まれ。国際NGOのスタッフとして災害・人道支援の現場に立ちながら、人と生き物と地球のドキュメンタリーを制作している。グリーンフィルムフェスティバル2024 最優秀賞。

出典:UNHCR 日本「ロヒンギャ危機から5年」

写真:コニー(@konijournal)ほか

この記事は、2021年3月〜4月の Instagram の投稿(1・2・3・4)をもとに書き直した物です。